第三十五話 ばっふぁろーまん (連続38日目)

いやあ、あたしが着いたときにはもう盛り上がっちゃっててさあ。
どれくらいかというと二人とも半壊してたくらい。
いつものことですけど、刃剣が刀剣に対して無敵で不死身なのはわかっててもびびりますよねぇ。あと、刃剣が刀剣ってまぎらわしいですねぇ。
(そんなに「いつものこと」なのか、と尋ねると)
ん?そうですよ?最近はあの子を取り合って毎日毎日ふざけて刃傷沙汰で…耐性がないふつーの子は何人か登校拒否になってたくらいですよ。ちょっと前にグロ画像テロとかあって少しはマシかと思ったけど、実際生で見て血の匂いを嗅ぐと、全くの別物だってわかっちゃいますからね。あたしたちには見慣れた光景ですけど。
「おおーこれはお恥ずかしい」
「ほんとーは骨肉君が来る前に二人で決着つけたかったんだけどねー」
そう言うと二人はあちこちに散らばった自分たちの身と刀を分けて離れたのね。再生までほんの数10分だったかなぁ。
二人が人の形に戻るまで、あたしは切り株に腰掛けて待ってたのね。ああ、場所は裏山の中腹当たり、そう、よく死合いしたり決闘したりするところ。えー?そんなに頻繁じゃないって、今年に入って私が知る限り三度目くらいだよ?うん、幹部だった頃に。よく利用させてもらいました。前々から良いところで茶々を入れたり余計な武器を相手に与えたりこっちにくれたりする、あのうざい双子は何者?とか思ってたんだよねー。まさか学校の先輩だとは思わなかったよ。
まあそれはともかく。
再生中にも「やっぱりお互いに刀剣では決着が付かないねー」「斬姉様位の実力差があれば勝敗はすぐにわかるんだけどねー」「でもわたしの方がささりよりほんのちょっと強いかな」「えー?そんなわけないよー?!わたしの方がきざみ姉よりほんのちょっと強いって!ていうかもうそろそろわたしが勝ってわたしがおねえちゃんになるんだからっ!」「むりむり♪ささりは前回と同じくわたしに負けて呼び捨てにされる運命さっ。もっともわたし、負けてもささりのことはささりって呼ぶけどね!」「何だとおっ!?きざみの癖になまいきなっ!」「むむむっまだ妹の癖になまいきなっ!」「きざみのくせに!」「ささりのくせに!」「きー!」「きー!」…って感じで口でやり合ってました。…うんうん、それも言ってた。言ってたけどそれをあたしに言わせるのはセクハラだと思いますっ><
ほんとにもう、ネコ使いむっつりスケベ説は真実だったのかってことですね、わかりました。まあそれもともかく。
刀剣の技では決着が付かないって事は二人ともわかってましたから、わかってる癖にくらべっこしたくなるみたいですね刃剣ってのは、えーとなんだっけ、ともかく、それ以外の技でくらべっこしようってことになりました。
「ほほう…その構え。二指刺神流?手業だけど基本裂く技がわたしに通用するとお思い?」
「刃物による直接攻撃でない限り、刃剣のプロテクションの発動は若干遅れるはずだよー。それにこれは二指刺神流そのものじゃなくて楯霧刺流二指刺神防護術改。ちゃんと違うものだからねー」
「むむむ…いつの間にそんな技を習得してたかなー。いつもいつも一緒にいたのに」
「へへー。ホントはただの見よう見まね」
「なーんだ。わたしに内緒してたのかと思ってどきどきしちゃったよ」
「そう言うきざみ姉はまだ刀術?意味無いぜーって言ってたのに?」
「ふふり。これを見よっ!」
「おおっいっつあまじっくそーど?」
「そうそう。魔法剣も刃剣は防御できるけど、やっぱり若干ダメージが先に通るからねー」
「むむむむ…きざみ姉こそ一人でそんな技を内緒でとは…ずるいずるいっ!」
「へへー。ホントはわたしも見よう見まね」
「なんだー。おなじだねっ!」
「おなじだよー」
「ねー」
「ねー」
…って、まあこんな会話の流れならこのまま仲良くなるとか、その見よう見まねで姉妹喧嘩再開するとかおもうじゃないですか?ですよねー。私もそう思いました。でも刃剣は違うみたいなんだ。斜め上過ぎてあたしゃすっかり不意を付かれましたよ。
「じゃあどっちがちゃんと修得してるか、ギャラリーにみてもらおうかー」
「そーだねー見物料代わりに試してみようかー」
ってね。
うん、必死こいて逃げたよ。幸いあそこは逃げも隠れも出来るところ満載だからそうする分には都合がいいんだけど。でも向こうのお庭ですしね。あっと言う間に追い詰められました。
で、まあしょうがないから、使っちゃいました、「スピーカー」。友達相手に使う技じゃないんだけどねー、あと、もう最後の切り札みたいなもんだから、あんま人に見せたくないっつーか。え?どーゆー技かって?そりゃあおじさん、企業秘密ですよ。
うんうん、大体そう言う技だと勘違いしてもらえると助かります…えー?まあ、おじさんと殺り合うなんて事は無いしおじさんの口が堅いのも知ってますけど、一応念のため。そうですね、嫁にでももらってくれたら考えましょう。あはは。じょうだんですよー♪
で、きざみさんには気絶しておいてもらって、VSささりさんですね。二度目以降の「スピーカー」は見事に通用しませんで、あたしはまたまた逃げ回ることに。
「楯霧刺流二指刺神防護術改を試すんじゃないんですか?!」って逃げながら聞いたけど、「ああ、あれはただのはったりだから」って返されました。
体術勝負なら少しだけ心得があるんで付け焼き刃の二指刺神流ならいなせそうだったんですけど、最初からそれじゃあ逃げるしか。
逃げて逃げて逃げまくって、おじさんが危ないからって戸棚にしまってるささりさんやきざみさんにもらった刀とか角とかでふせいで、ああ、無断で持ち出してごめんなさい、それで何分持ったかな、割とすぐにきざみさんも気が付いて。肋骨は砕いた感触有ったんだけどなぁ。刃剣にはそれも無意味なんですかね。
まあその頃には二人とも本気であたしを殺ろうってわけじゃないってわかってましたけど。でもあたしは本気で避けて逃げないと死んじゃいますからね。しかもなんか過大評価してるんですよかんべんしてくださいよ。
あ、見て見て、これ。ばっふぁろーまーん♪
あー帰ったらすぐ見せようと思ってたのに今の今まで忘れてました。ちょっと再生が始まってるからおもしろさも中途半端だ!あたし残念!
あーギャグなんだから笑って!わらって!笑ってもらえないと非常に辛いっす!
まあ、いいか。
このたとえはおじさんには悪いけど、まあ猫が獲物をなぶるみたいにして、あたしは二人に良いように遊ばれ続けてたんですよね。窮鼠猫を噛むにしてももう必殺の牙は使っちゃいましたし、だんだん疲れてきて動けなくなるし。もうだめだってときに現れるヒーローは元あたしの敵だし。
で、切られちゃったのね、角。血ぃ出ましたよどばーっと。くらっと来ましたよくらっと。そこで攻撃が止んだから良いけど、そうじゃなかったら次の一撃はもろに入ってましたね。
「とったりー」
「とったりー」
二人は岩の上でガッツポーズですよ。しくしく。
「さーて、これだとどっちが勝ったのかわかんないよね、ささり」
「えー?!わたしが角を取ったんだからわたしが勝ちでわたしがお姉さんだよ!」
「角を切ったのはわたしだし。だからわたしが勝ちでわたしが姉」
「わたしだよ!」
「わたしだ!」
もうどっちでもいいですよとほほ。
まあ二人は岩の上で今度は素手でなぐりっこを始めました。でもまあ刃剣ですのでついつい手より刃が出ちゃって。後はあたしが来る前と同じ。
二人が夢中になってる間にあたしはこそこそと隠れまして。本当は逃げたかったんだけどこの後に来るあの子がね、気になって。いやいや。いやいやいや。ちがいますよー。だってあの子にはステディがいますもの。あたしなんざー視界にも入ってないですよ。向こうは高校生で、あたしゃチューボーですからね。
ああ、だから夜太君ですよ。それとこよるちゃん。
先輩だけどあたしはあえてちゃん付けで呼ぶぜ!
だってかーいーんだもーん♪
おじさんだって知ってるはずですよ?名前は知らなくても、ほら、ロデムとかロプロスとか…はぁ?バビルなんとかってなに?それじゃなくて。
えー
マジで知らない?
確かに向こうも知らないって言ってたけど、三年もおなじこの町で暮らしててお互いに知らないなんてありえなくね?
だって、こよるちゃんは、犬使いなんですよ?