第四十七話 鳥足 (連続52日目)

秘密結社は何故秘密なのか。
もちろん秘密とは甘美なものだ。
文字通り秘められた密。誰もが夢中になるほど甘く、危険。
結社に在籍するメンバーの何人かは確実にそれを目的に行動している。つまり、「誰も知らない私でありたい」
しかし秘密結社を秘密にしている最大の理由はもっと単純なものだ。保身である。
たとえば秘密結社の幹部達の連絡先が公的なもので、そのアジトの住所を誰もが知っていて、彼らのスケジュールを簡単に掌握できたらどうなるのか。
私が世界政府ならもっともして欲しくないタイミングで暗殺をしかけるか、ピンポイント爆撃を敢行する。通常の結社はそれに対抗できない。
政府の要人達の連絡先が公的なものでその組織の所在地を誰もが知っていて彼らのスケジュールがほぼ決まったものであるのは、その方が都合がいいからだが、それらを晒しても対抗できるだけのパワーがあるからでもあり、無ければそれこそ話にもならない。
ネコ使いの連絡先がそれなりに知られていてその現住所も調べればすぐに分かりスケジュールなぞ調べなくてもほぼいつも家にいるのは商売上の都合だが、とても害をなそうとする悪意に対抗できるようには見えない。
よって我が家に爆弾が落とされた。
当然だな。
予測の範囲内なので対策は立ててあった。ありがちだが、結界だ。そんなに何発もの爆撃に耐えられるわけでもないがその間に荷物をまとめて逃げることくらいは出来る。
幸い人的被害も猫的被害もほとんどなし。屋根に大穴が開いたのと結界魔法がもう次の爆撃に耐えられないこと、そして何よりご近所迷惑であることから、私達はついに引っ越しを余儀なくされた。


隣の地域からなんとか戦隊なんとかレンジャーのパトロール機が巡回してくれることになった。膨大な数が存在する上に毎年入れ替わるので流石の私も正確な名前を覚えていない。他地域の話でもあるし。しかしいくら何でも失礼すぎるので後で調べておこう。
私の家に爆弾を落とした爆撃機は未だ行方不明。爆撃機かどうかすらもわからない。
私自身は例によって例の二人組に逮捕され、数日間監禁されて事情を聞かれた。爆撃した側ではなくてされた側が逮捕されるのはおかしいとは思うのだがいつものこと過ぎるので私は反論さえしなかった。
その間、テレコスピーカーと猫達は隣の楯霧家に預けた。私が戻り次第裏山の楯霧本家へ移動する予定だ。
「俺の家だって爆弾何発も落とされたらたまったもんじゃないけどな。不意打ちじゃなければ「切って」落とせるだろう。まあ家賃はツケにしといてやるから事態が落ち着くまで居座って良いぞ」
「つまり斬ねぇちゃんが何を言いたいのかというと…ゆっくりしていってね!」
ゆっくりしていってね!」
刻と刺は一発ずつ殴られた。


不毛な取り調べの間何度も訊かれたし私自身もずっと考えていた。「何故、私なのか」
裏山には一発も爆弾は落とされていない。今斬達が住んでいる家にも被害がない。綺麗に私の家にだけ本当にピンポイントで落とされている。
商売柄私はそれなりに恨まれているし敵も多い。昔のことを未だに根に持つ奴らもいる。だから何かのついでに私の家にミサイルを撃ち込むなんてことはいつだって有り得た。しかしあくまでついでに、だ。
近所に十和田の研究所があるのに、隣に楯霧の家があるのに、何故私のみを狙う?
そこには必ず意味があるはずだ。
犬使い絡みの事柄には一応のケリが付いたものの未だに不可解な事が多すぎる。爆弾を落としたのは例の名称のない秘密結社だとして、何故だ?私はそこまで恨まれる理由が…
ひょっとして蒼々で切ってしまった何かのせいだろうか。
にしては、タイミングが遅すぎる。爆撃機の調達に手間取ったのだろうか。そもそも、何故ピンポイント爆撃だったのだろうか。悪の秘密結社にしてはフェアすぎるし正確すぎる。
特別対策部から開放された後もしばらく調べ続けたが何一つわからなかった。
が。
いきなりわかってしまった。
貴重品ととりあえずの荷物を持って全員で山へ入ろうとしたとたん、それは現れた。
待ち伏せしていたらしい。
その巨大な戦闘機械は足だけのモビルスーツのような姿をしており、股間に位置する部分に私の家を襲ったのと同じと思われる爆弾が設置されている。戦闘機械の足は長く、その足なら家を一軒またぐことが出来そうだった。出来てしまうのだろうな。
その上部にコクピット、さらに上には鳥の羽のようなものが生えている。まさかこれで羽ばたいて飛ぶ、なんて事はないよな。力学的に無茶だし。
そういえばこれを見たらしいナゴナとグナイは言ったのだった。『とりがおうちにう○こしていったのです!』あの時は爆撃のメタファーだと思っていたが、そのまんまの意味だったのか。どちらもまだ幼いのでリンクを極細くしか繋げてないのが仇になった。いや、知っていたとしてもどうしようもないが。
「にょはははははははははははははお久しぶりです、ネコ使い!」
スピーカーを通して聞いたことの有る声が響く。ニクキュウだ。生きていたのか。ちゃんと埋めたはずなのに。
「いつぞやの恨み、晴らさせてもらいますよ?!」



戦闘は5分で済んだ。
危うく我が家と楯霧家の中学生達を休学させてしまうところだった。
早く出てきてもらって助かった。
家の修理が終わるまで隣の家にご厄介になることになった。やっぱり家賃はツケだと言われたし、ゆっくりしていってねといわれた。
ニクキュウはもう二度と蘇らないように地中深く埋めたが、ひょっとしなくても黄泉返るんだろうなぁ。