第四十九話 番組 (連続54日目)

テレビを付けると例の戦隊が例の戦闘機械と最終決戦を行っていた。猫達を通じて知っていたし見てもいたが、テレビで見るのは初めてのことだ。
「でも、なんでいつも日曜朝なんですかね?」
録画編集してあるからだ。そうでないととてもテレビでは流せない内容だし。
例の戦闘機械は一体一体がごてごてと合体していって、全長100メートルほどの巨大戦闘機械になっている。
テロップによると『ビッグウィングデサー』小さい方は『ウィングデサーズ』
アナウンサーが叫ぶ。
『デサーマシーン達は合体して、ビックデサーマシーンになるのだ!』
なんで知ってるんだろう。
今年の戦隊…アイス戦隊クールメンジャーと言うらしい。調べました。…の戦闘機達もかっこよく合体、『ファイアーロッカーズ』とやらになった。
『にょほほほほほほほほほほほ。ネコ使いに埋められた恨み、今日こそオマエ達で果たしてやる!』
ニクキュウだ。理屈に合わない逆恨みなあたり、実に子供番組の悪役らしい。
私は全く知らなかったが、ニクキュウはこの番組でレギュラー出演しているようだ。毎週毎週派手に爆死しているのに、来週になると生き返ってクールメン達と戦っている。
『ネコ使いって誰だよw』
もっともだ。業界ならともかく、こんな子供番組で屋号を連呼されてはたまらない。
『えーとえーと…ともかくそんなことは良い!私のかわいいデサーマシーンちゃんを苛めた罪も償ってもらうぞ!クールメンジャー!』
『しらねーよそんなのw』
『人に迷惑かけておいてその物言いなの?』
『お仕置きが必要なようだなw』
『そもそもデサーマシーンかわいくないしw』
『うおー!燃えるでゴワス!!!』
…一応恩があるのであまり言いたくないが、何だかむかつく戦隊だ。実際の彼らはこんなではなかったような気がするのだが。テレビ的演出なのだろうか。
でもオチ担当の黄色がいい味を出している。一人だけ戦隊服じゃなくてランニング着て坊主頭だし。
「た○ですかね?」
「○まじゃないかなぁ」
ともかく二体の巨大ロボットは周りのビルを破壊しながら戦い始めた。これは実際の映像だ。特撮ではない。
建物には保険がかけられ人々の避難は事前に済んでいるが、いつ見ても心の痛む光景だ。
「でも、毎回毎回一通り避難が済むまで待つじゃないですか。えーとこの…『アクデサーズ』って事になってる組織も。一応毎年のお約束ごとですけど、よく破られないものですよねぇ」
「元秘密結社幹部が私にそれを振るのか」
「だってあたしん所は巨大戦無かったし。そんな無駄なことしないし。予算もなかったし」
「そうか。じゃあ知らないなんて事もあるかもな…あー、まあ、業界の仁義みたいなものだよ。秘密結社も無差別殺人がしたいわけじゃないからな」
避難者達の中には秘密結社の工作員も混じっている。巨大戦で勝利する事は稀なので、撤退には都合がいいという意味もある。
数分間殴ったり蹴ったり技を出し合ったりした後、今週もファイアーロッカーズアイスソードが一閃、ビックデサーマシンは大爆発、『今週こそ勝って来週からもっとグロいデサーマシンにしたかったのに…がくり』と言い残してニクキュウも派手に爆発した。画面にはモザイクが掛かった。
『ファイアーロッカーズ、今週もクールに大勝利です!』
勝利のポーズもなくファイアーロッカーズはクールマシーンに分離、無言でクールに帰っていく。
いや、なんか言おうよ。
番組はこの後クールなショートコント→クールなED→クールな次回予告で終了した。
「…酷いねつ造だな」
「うぃ、でもオモチャの収益金は結社にも入るんで、広告効果も含めてわりとおいしいンですよ?」
「なんだ、やっぱり知ってるのか」
「戦隊モノはやったこと無いけど、次の番組とかは私達の組織も一枚噛ませてもらおうって色々動いたことがあるんですよ…まーマイナーすぎるのとウチのボスがシナリオが気にくわないって蹴っちゃったんだよね。蹴らなきゃ経済的に破綻もしなかったのにな…とほほ」
ソウルパニッシャー(仮称)の変身ベルトものか…見てみたかったかも知れない。
続けて××ライダーネモトが始まった。
「あれ?地域限定ヒーローなのに全国区?」
「あたしも知らなかったけど、他のヒーローとの交渉が間に合わなかったらしいですよ?で、ネモトさん」
かっこいいOPに引き続いて、やたらとスタイリッシュなドラマが始まった。
ネモトさん役の若い俳優がカッコイイセリフを吐くたびに吹き出しそうになって困った。
怪人を前にその役者が叫ぶ。
『オマエを…やっつけてやる!』
変身。
私はついに耐えられなくなって笑ってしまった。
ごめんなさい、ネモトさん。