第六十三話 お手伝い (連続68日目)

約束は約束なので私は夏休み限定でテレコスピーカーを助手にする事を認めた。
「追試や補習が無ければ、だがな」
「えー」
と言いながらもそれほど嫌がっていないのは、それなりに手応えを感じているからか。
全くなんだって私の仕事を手伝おうなんて気になるのだろうか。確かに私の経営能力は拙いので見ていられない…と言われれば確かにそうなのだが、いくら元秘密結社幹部だからといって中学生が経営に口挟みたいと思うか?
バイト代も出ないのに。
「えー」
そりゃ働きによってはご褒美という形で何らかのお返しはするつもりだが…屋根に穴が開いたのがなぁ。
「最低賃金の保証を要求しますっ><」
「いや、そもそも中学生は雇っちゃイカンのだし。経営苦しいから人は増やせないのだし」
まあそれはともかく。


人使いについて他の人達にも尋ねて回った。
十和田と叶開花は何かを知っているようなそぶりだったがうまくはぐらかされ何も聞き出せなかった。その理由のベクトルは全く違うが二人とも『その方が面白い』と考えているようだ。
ネモトさんは知っていることを全て教えてくれたがそれは私が人使いの存在を知った直後に自分で調べたことと大差なかった。
「わしも人使いは気になっておったのじゃが別にまだ悪いことはしてないしのう。人の命を簡単に消費しておるのだから悪は悪なんじゃが人質取られておるしのう。困ったものじゃて」
ほんと、困ったものです。
たまよ達の意見は真っ二つに分かれていた。
「私と珠音は何とかしてこの脅威を除きたいと考えていますが、珠美と珠沙は擁護したいみたい」
「ちげーよ珠樹。おれっちだって正義側の人間さ。人の命、それも子供の命が掛かってるんだ、なんとかしてーとは考えてるさ…でもよう、あいつもこのおっさんと同じで自分の能力に振り回されてるだけなんだよ。おっさんみたく自重してればなんも問題無いんだし、そのための手助けはしてやりてーじゃん?」
「…でも、昨日一人殺してる。見逃せない」
「それはそう、常考。しかし私達が間に合えば九州での惨事も皆無」
九州での惨事?
「あの先生、福岡の小学校からこっちに転勤してきたんだ。その直前にそっちの地域の秘密結社と揉めてさ。おれ達が間に入って納める予定だったんだけどあの先生張り切っちゃって。おかげで九州全域で人が死ぬ死ぬ」
九州で原因不明の熱病が発生したというニュースの元はこれか。酷い話だ。
「転勤というより厄介払い…地元では雇用されないのでこちらに流れて来た感」
「仕方ないから今は私達があの人に何もさせないようにガードしてるんですけど。昨日は間に合わなくて…他の案件で丁度居なかったんですよねー。誰か一人でも校内に連絡をくれる子がいれば珠音を差し向けられたのに…」
「去年までなら珠沙がその学校に転校出来たのですが。中学生になってしまったので」
「まーどっちにしろ人質を何とかしないとどうしようもないし、ウチらも静観って感じだ。ま、ぶっちゃけおっさんの事も同じように要警戒で静観してんだけどな。でも、次あの先生がはっちゃけたらおれっちも今度は全力で潰しに行くから、そん時は手を組もうぜ?!」
要するにララバイ魔法少女天使巫女猫姉妹たまよにも打てる手がないのか。
こんな時こそ時走社の隔離と書き換え能力がフルに使われるべきなのに、生憎それは実行されていない。その辺本当に聞きたいのだが未だ次の新任担当者が現れない。すでに仕事は始めているはずなのだが、私の所には来ないのだ。
「それには理由がある。でも、内緒にしてと言われた。いずれわかるから気にしない」
珠音はそう教えてくれた。いいから待て、ということか。
地域は違うけれど全国展開している戦隊組織、アイス戦隊クールメンジャーにも連絡を取ってみた。
黄色以外は「前向きに検討する」と言ったきり特に反応がなかった。むしろ『なにそれ?ふざけてんの?』みたいな態度。
「サーセン、こいつら冷めすぎててサーセン。ボクら魔法とか無理ですから…秘密結社相手の戦闘とか巨大戦とかなら得意なんで、そういう流れになったら教えてくれっス」
やっぱり黄色はいい人だ。
他には…いつもの年なら秘密結社側の意見も聞けるのだが今年は拗れてしまったからなぁ。
知っていそうなのはあと一人。


外は大雨でずぶぬれだというのに斬は上機嫌だ。何か大きなものが売れたのだろう。
「これ、土産な。あと、酒。久し振りに良い業物が良い使い手に売れてな。これはその祝い」
タオルを渡しながら私は早速人使いについて尋ねた。
「ああ、あの先生な。やっと気付いたのか」
やはり以前からの知り合いか。もしかしなくても、向こうにも武器を提供していたりするのか?
「ん?なんでだ?猫殺し。俺は金さえもらえばどんな武器でも作って売るしレンタルも大歓迎だが、あの先生はお前と一緒で貧乏だぞ?やりようによってはいくらでも貢がせて稼げそうなんだが、根は良い奴なんじゃないかな?知らないが」
つまり提供はしてないのか…良かった、斬の武器を相手に戦うなんて事は出来れば避けたいからな。
「ん?そうか、ついにあの先生と殺し合うのか。よしよし。犠牲は出るだろうが正義はこちらにあるのだ。存分にやるべき、むしろやらなければな。良く決断した。とてもそんな風には見えないが、どうやらお前もようやっと元の猫殺しに戻ったようだな?むしろ覚醒したか?スーパーサ○ヤ人か?良いぞ、応援してやろう。奴は強敵だからな。今のままじゃ戦力が足りないだろう。蒼々も貸してやるし今の装備ももっと良いのに変えてやるしなんなら俺が直接出向いて手伝ってやっても良い。それでいつ殺る?状況は悪化するばかりなんだから急ぐよな?明日か?明後日か?もしかして今か?今すぐなのか?」
ちょっと待て。何故そうなる。
「ああ、そうか。すまん、雨降ってるものな。それじゃ猫殺しの力も半減だ。じゃ、晴れたら決行だな?予報では明日は晴れるらしいぞ?ああ、楽しみだなぁ。腕がもげても足が折れても戦い続けるんだろうなぁ。人と猫が次から次へ血を吐いて倒れていくのだろうなぁ。血が沢山でるんだろうなぁ。何人死ぬかなぁ。うふふふふふふふふふ」
顔を赤らめくねくねしながらいつまでもふふふと笑い続けている。視線も何故かとても遠い。
何だかよくわからないが、私は斬の変なスイッチを押してしまったようだ。どうしたものか。オロオロしていると斬はいきなり笑い止んだ。
「なーんてな」
…冗談、だったようだ。
「十和田のマネをしてみた。ま、このまま殺し合ってくれると面白いなとは思ってるんだがな。これは本気で」
最終的にやむを得ずそんな流れになるかも知れないが…出来れば穏便に済ませたい。
「またか。失望した。だが、お前はそういう奴だよな…まあいい。上がらせろ。飲みながら話そうじゃないか。それともお前は玄関先で俺を追い返す気か?」
「ひどい!」
「あんまりです!」
いつの間にか後に刻と刺も居た。やはりずぶぬれだ。刻たちは隣の家から歩いてきただけのはずだが、1時間くらい外で追いかけっこしてきましたと言っても信じられるくらい酷く濡れている。ひょっとして刃剣は傘を差さないのだろうか。少し記憶をサーチしてみたが傘を差している彼女たちを一度も見たことがない。同じ学校に通っていたときもずぶぬれで登校してくるか、それとも雨の日は来ないか。そもそも来ない日の方が多かったな、そういえば。
片手がふさがっていると刀を抜きづらいから、とかだろうか。
まあそれはあとで聞こう。
玄関先で人非人扱いされても困る。三人を居間に通してテレコスピーカーに着替えを準備してもらい、私は風呂を沸かしに行った。