二十二話 宣戦布告 (連続24日目)

この地域にある学校設備は全部で13。
小学校が6、中学校が4、高校が2。そして大学が1。田舎の割には充実していると言えるだろう。特に大学は我が家から近いこともあり、毎年事情を知らない若者が安すぎる家賃に引かれて近所に引っ越してくる。そして今ぐらいの時期から再度引っ越していく。引っ越せない学生は…可哀想というか、申し訳ないというか。
大学には十和田ランシールの研究室も存在している。奴が大学で何を教え何を研究しているかについては知らないし知りたくもない。
テレコスピーカーが通う中学校もその大学の施設内にある。私立だが改造されたり生まれつき特殊能力があったりする学生を受け入れてくれる中学校はこの地域ではここだけだ。当然各組織の色々な層の子供達が集まることになる。
「まさか刻さんや刺さんが同じ学校とは思わなかったよ!びっくりだ!」
いや、私の方がびっくりだ。用もないのに学校の敷地内をうろついているのは知っていたが、まさか授業まで受けているとは。
「確か私が通っていた頃も学生していたような気がするんだが…そんなに何度も中学生して楽しいんだろうか」
「なんか、取得した単位が少なすぎでずーっと留年しているって言ってましたよ?授業にもたまにしかでないみたいだし…てか、おじさん先輩だったんですね!?おおう、なんか、感激」
「だから食事中に立ち上がるなと。角も自重しろ。…にしてもおかしいな、いくら何でも私が通っていた頃から20年以上は経っているぞ?」
そう言うとテレコは指を折って数え始めた。
「20年以上ということは…おー。おじさん、やっぱおじさんですねー」
今までなんだと思っていたんだ。
「もっと若いのかなーと…ふむふむ。これからお父さんって呼んで良いですか?」
ヤダよ。つーかフサエはお義姉さんなのに私は父さんなのか。
「だってフサエさんは私と10ちょっとしか違わないし。ろりこんですか?…あれ?って事はあたし貞操の危機?今度から寝るとき客間に鍵掛けて良いですか?」
子供に興味はないって。つーか鍵掛けてなかったのか。
「掛けると猫ちゃん達が文句言うじゃないですか…客間で寝る子も多いし」
それは文句言う猫の方が悪いな。ルール的には客が居るときは客間は不可侵だ。レベッコに知られたらきつく叱られるぞ。
「うっ…それはそれで可哀想な気が。…あっテレビ見て良いですかテレビ。サッカー有るっスよサッカー」
ダイニングからも居間のテレビが見られる。しかし、食事中に見るのは感心しないな。今朝も言ったが。
「えー。だって代表戦ですよ?見ないとクラスの話題に乗れませんよ?刻さんや刺さんも見るらしいですよ?!」
今時の子はあまりテレビ見ないと思っていたんだが、違うのか。刻や刺まで見るとは意外だ。
「なんかねー、気になる子がサッカーとかそーゆーの大好きらしいんだぜ?恋愛フラグの予感!」
うわぁ。そういうことか。刃剣なので恋愛と言っても人とは微妙にズレた感覚なのだろうが、これで十数年ぶりに授業まで受けてる理由がわかった。必死だな。
「あっあたしが言ってたのは内緒ね?猫さん達に調べさせるのも禁止っ!何故なら乙女の秘密だからっ!」
その気になる子の為にも調べて置いた方が良いような気がした。場合によっては命に関わるので、忠告くらいはしておきたいところだ。しかし乙女の秘密と言われては引き下がらざるを得ない。
「に゛っ」
スンタリーがテレコに忠告する。
「?なんて言ってるの?」
「そろそろ始まるけど良いのか、だそうだ」
「うほっやべえっス」
テレコスピーカーは慌ててご飯を掻き込み始めた。いや、そんなに見たいなら別にかまわないから。付ければいいから。
「えっ?マジで?やったー♪」
彼女は慌てて今にテレビを付けに行った。中学生なんて子供みたいなものだが、「やったー」はどうなんだろうな。
しかしテレビに映ったのはサッカーではなかった。


何やらゴテゴテした冠とヨロイ、そしてマントを装備した初老の男がそこには映っていた。いかにも悪の秘密結社の首領と言った態度で玉座のようなものに座っている。カメラはそこから寄っていき、その男のアップになる。例の統合しかけていた2つの組織の一方の首領だ。
『こんばんわ、日本の諸君。まずはこれを見たまえ』
誰もが吐き気を催すようなグロ画像が次から次へと流れ出す。私はみそ汁を吹きかけた。
「ちょっ!?さっかーは?!」
テレコは慌ててチャンネルを変えるが、どのチャンネルもそのグロ画像が流れていた。
『はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。テレビはもちろん、2ちゃんやニコニコ動画とかも全てジャックした!はてなハイクもだ!サッカー見れなくてごめんねwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
秘密結社の首領としてはフレンドリーでお茶目だと言えるが…うぜえ。もうご飯食べられ無いじゃないか。
「グロ画像張るなバカバカっ!」
「ふにゃー!」
「フーッ!」
「に゛っ!」
猫たちにも不評だ。サッカー見たかったのか。
『これより、我は宣戦布告する!』
グロ画像は突然途切れて、また首領のアップに切り替わった。グロ画像を流した意味が分からない。普通、テレビ消すだろ。宣戦布告聞いて欲しくないのだろうか。
『我々蓮画像普及委員会は長年抗争を続けてきたSOS軍団と基本合意し、ついに合併することとなった!新しい組織の名前は公募中!みんな我のサイトからアクセスしてふるって応募するがいい!採用した者には先ほどのグロ動画をプレゼントだ!ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは』
そして突然立ち上がった。カメラは急いで引いた。首領は嗤いながら両手を∩( ・ω・)∩こんな風にして玉座のようなものをグルグルと回っていた。めちゃめちゃフレンドリー。これからこの組織が商売の相手か。頭が痛い。
「うわっテレビの電源切れない!」
どういう嫌がらせなんだろうか。つーかそんなこと技術的に可能なんだろうか。
『ぜーぜーぜー…久しぶりに…ぜー…運動っ…したから…息が…ぜー…切れよった…げほげほっ」
この後、咳き込んで苦しむ首領の姿が五分間そのまんま流れ続けた。編集したりする技術とか思いやりはないようだ。
「コンセント引き抜いても映ってるよ!どーゆーテクノロジーだよ!」
しらんがな。
やがて落ち着いた首領は玉座っぽいものに座り直した。またカメラは首領に近づいていく。
「ふー…すまんかったな。おまたせした。そんなわけで、我々が日本を、世界を、ゆくゆくは宇宙を支配するのでよろしくということじゃ。どうだ?こんな首領ならなんか分割統治されたいなーとか思わんか?部下になって支えたいなーとか。そーゆー輩には先ほどもお知らせした我のサイトから応募するが良い…は?ゆーあーるえるとな?しらん。ググれ。えーとこんなモンでええかの?」
しばらく画面外の部下達とぼそぼそと協議していたが、ぐだぐだのまま唐突に放送は終わった。
テレコスピーカーは慌てて引き抜いていたコンセントを刺し、スイッチを押した。
『ゴ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−ル!』
日本代表はその瞬間4点目を入れられた。
「ギニャー!」
テレコスピーカーは叫んだ。


食器を片付けながら考える。
ああ見えてあの組織はなかなか手強い。作戦はいつも知恵が足りない感じのものばかりだがその数は本気になれば対処しきれないほどになる。
たとえば数日前に幼稚園のバスがジャックされたが、その数は全国で4桁を超えた。各地の戦隊がお約束通り解決したがその被害額は少し洒落にならないものになっていた。そんなことを毎週のように繰り返している。組織の規模が二倍になったのでこれからは毎日かも知れない。
そして彼らの戦略はそれだけではない。
私はこれまで通り依頼された情報を調べてバランス良く売っていくだけだが…少し気を付けた方が良いかも知れない。
「それにしても六月になったばかりだというのにもう宣戦布告か…」
「フーッ」
レベッコは同意した。いくら何でも早すぎる。このペースだとプロ野球のシーズンが終わる前に今年の状況が終了してしまう。
問題はこのハイペースが時走社によるものではないと言うことだ。時走社が私の動きを封じようとしているのはそれへの対策でしかない。
「ネコリンクに引っかからない組織がもう一つあるのかなー」
「フーッ!」
深追いするな、とレベッコは警告する。
そうだな、私はネコ使い。地球の平和は別の人に任せて、いざというときのための逃げ道を用意して置いた方が良いだろう。
否応なく巻き込まれるのは確実だけれども。