第三十三話 報告 (連続35日目)

ヤマダデのチームメンバー、オイワイの証言

はい、いつものように学校まで気付かれないように警備、その後学校外で観察業務。そこまではいつも通りでした。今日は刃剣の二人が学校を休んでいたので正直ほっとしていました。最近は学校外からもわかるほど騒ぎを起こしてましたからね。今日は平和で良いなぁなんてオクヤミと話していました。
でも平和も五分ほどで終了です。
始業の鐘が鳴る前にテレコスピーカーが走って出てきました。血相を変えて、全速力です。我々のチームは、さて分担して付近をぐるぐる回るかぁなんてのんびりしていましたから、虚を突かれた格好です。追いつくまでにだいぶ時間が掛かりました。あのまま全速力で走り抜かれていたら追いつけなかったでしょう。
ええ、そうです、10分ほど走ったところで息が切れたのか、あっさり歩き出しました。
そして最寄りのコンビニに入って休憩です。
ええ、暑かったからかも知れません。マンガを立ち読みしながら20分ほどは居ましたかね。アイスを買って出てきて、店の前でうんこ座りしながら食べ始めました。ええ、いつも通りですね。
食べ終わるとふらふらと歩き始めて、そして数百メートル離れた位置にある別のコンビニに入りました。お腹を押さえていたのでトイレかも知れません。それからまたアイス買って出てきました。アイスどんだけ好きなんだよって事ですよね。
食べてる途中に、ナゴナがコンビニ前の駐車場を通りかかりました。ええ、あいかわらず人の縄張りなんか完全無視です。ストーさんも毎回大変ですよね。
テレコスピーカーはそれをめざとく発見。ナゴナはあっと言う間に首の後を捕まえられて抱きかかえられちゃいました。
私達はストーさんと合流。協議の結果、テレコ追跡班に加わることになりました。代わりに取り急ぎご主人様に連絡を、と言うことで私が屋敷に戻ってきたのです。
速ご報告したかったのですが、気持ちよく眠っておられるようだったので起きるまで待つ…つもりが、私も釣られて寝てしまいました。申し訳有りません。

たまたま通りかかった臨時つかわれ猫、アイサツの証言

んー俺はたまたま通りかかっただけだから。
それで、この坊主を屋敷まで連れてってくれって頼まれてさ。
俺は屋敷を出てすでにフリーの身の上だけど、こんなやんちゃなガキをそのまま放っておくなんて外道は出来ないしさ。あと、屋敷のメンツにも久々に会いたかったし。
どうよ景気は?
しけたツラしてるからボチボチとも行って無さそうだけどな。
ああ、そいえばレベッコの姉御は?しばらく具合悪かったって聞いたけど…おお、さすが姉御。じゃあ挨拶に行ってきますわ。
あと、その坊主、躾がなってないからちゃんと見てやらないとダメですぜ?
なんか人のテリトリーって概念がはなっから無いみたいだし。

ヤマダデチーム、オクヤミの証言。

オイワイがバカですみません。
報告したらすぐ戻るように言っておいたのに…コンビニまでは彼の言ったとおりです。
それからテレコさんは『こんなコトしている場合じゃなかったってばよ!」とか言い出して、また再び走り出しました。で、今家の前を通過した所です。私はオイワイを回収に来ただけなんですが…ご主人も来られますか?
おそらくこのまま裏山に入るはずですが…そうですか。わかりました。では応援だけお願いします。
ええ、恐らくかなりしんどいことになるかと。ご主人もお気づきでしょうが、すでにただごとではない雰囲気が裏山から漂ってます。

裏山に住む野良猫の証言。

おぅ、ここがお屋敷とやらか。
良い感じの家だな。
俺はヤマダデとか言うのに頼まれたんだが、おお、言づてだ。
「リンクを強化してくれ」、だそうだ。
なんか騒がしいから逃げてきたんだが、アンタは行かなくて良いのかい?

ストーの証言。

途中報告に来ました。
現在刺と刻、そして何故かテレコ嬢が交戦中。
骨肉は未だ現場にたどり着いていないようです。
私が見たところテレコ嬢は善戦してますが長くは持ちません。ご主人による我らの遠隔操作で援護が必要かと…ええ、選択になりますね。我らか、テレコ嬢の命の。

斬から電話。

おう、言いつけ通り家で大人しくしてるな?感心感心。
なんかお前は知らなかったみたいだが、今回のもめ事は角娘も深く関わってる。
俺はてっきりあの娘の方を持ってお前が参戦すると思ってたんだが…ふふん、まあ、正解だな。子供のケンカに俺達が出しゃばるのもな。
でもよう、お前、それにしてもあの娘に気を使いすぎじゃねーか?
多分猫の視線でお前も見ているだろうが、テレコは引いて代わりに肝心の坊やがようやっと登場したところだ…あ?違うよ。咀嚼丸じゃない。知らないのか?おいおい…
忠告する。これは知っておけ。
死なない程度に観察することだって出来るだろ?
ああ、めんどくせーけど今回はフォローに回ってやる。猫達がうっかり死んだりしないようにな。十和田も日が沈み次第こっちに来るだろう。
…そうか。
わかった。
そうやって何時までも自分可哀想ごっこしてろ。
じゃあな。

テレコスピーカーから電話。

うん、無事だよー。なんと全員無事。
すげー、奇跡デスヨこれは。
山の形が変わるほど大暴れしたのにねー。まあおじさんは知ってるだろうけど…
え?
そうなの?
うわあ、おじさんいい人だぁ。
じゃあ一番気になってるだろう事だけ、かいつまんで言うよ。
えーとさっき言ったとおり全員無事です。ものすごーく遅れて到着の咀嚼丸さんも無事。たどり着いたときには全部終わってたしね。
猫ちゃん達も大丈夫。みんないい子だったよー。
被害は全員ちょっと疲れたことと、夜太君が突き指したくらいかな。こよるちゃんは、もーいつも通り夜太君が完全ガードしてたし。
…え?
しらない?
マジですか?
あー…ひょっとして学校内で猫ちゃん達を見かけないのはそういう…
えー
じゃあひょっとしてあたしに対する愛がないとか?
ちょっ!
肯定しないでよ!
そこは否定してくれないと!
…うー。わかった。もー携帯の電池ギリギリだから切るね?
あと、帰ったら嫌でも聞いてもらうんで覚悟するがいいぜ!
へへへ。
じゃあねー。

ヤマダデの報告

いやあ、凄い物を見ました。
フサエ様が亡くなってからは自分の命なんて…なんて思ってましたけど、生きてて良かった…
結局薄いリンクしか張っておられなかったのでご存じないでしょうが、歴史に残る一戦でしたよ。
さあ、私の命と引き替えでかまいませんから、ご存分に…
え?
後で話を聞くからいい?
…はあ。
わかりました。
色々盛りだくさんな一日でしたけど、今日一番のがっかりはそれですね…
子供の痴情のもつれなんて知りたくないって事でしょうけど、これは知っておいた方が…
はい、わかりました。
では、ヤマダデ班全員無事帰還。
以上です。


私が知り得たのはこれだけだ。
まったくわけがわからない。
だがそれで良いのだ。
知ってしまえば後戻りは出来ない。ならば最初から知らずにおこう。
この件に関して私はそう決断した。
大体何が起こったのかは予測できるしな。
そしてそれどころでもないのだ。
同じタイミングでぷるぷるおじさん(仮称)が作戦行動を始めたのだから。